大谷翔平選手も襲ったピッチャーの肘の怪我「内側側副靭帯損傷」って何?予防法、PRP療法も解説

大谷翔平選手の怪我で話題になっているピッチャーにおける肘の怪我。

大谷選手を襲った「内側側副靭帯の損傷」は非常によく見られる症状ですが、一体どんなものなのか?

また、その予防法や治療法について今回は書いてみたいと思います。

 

なぜメジャーに行ったピッチャーは肘を壊すのか

メジャーリーグに行ったピッチャーが肘を怪我することは多いですが、そもそもどうして肘を壊すのでしょうか?

日米のボールの違い、高校野球時代からの投球数、登板間隔、どんな球種をよく投げるか、球速など原因については議論が絶えませんが、プロやトップアスリートでは体にかかる負担が過剰になるという点に注目するべきと私は考えます。

Load(負荷)>Capacity(キャパシティ)と体の許容量を超えた負荷がかかると障害リスクは上がります。

ただ。これは相対的なものです。
プロやトップアスリートはトレーニングなどにより高い体のキャパシティを持っています。しかし、強度が高い運動をしているので負荷も高くキャパシティを超えることがあります。

一般の方は運動の強度が低いので負荷も低いですが、体のキャパシティもアスリートに比べて低いのでちょっとしたことで怪我をしてしまうことはあります。

メジャーに行ったピッチャーが肘を壊すのは、慣れない環境でハッスルするため自然と体にかける負荷を上げてしまっていたり、メジャーのパワーヒッターに対抗するために運動の強度を無意識で上げてしまうということがあるのではないかと思います。大谷選手がいかに強靭な恵まれた肉体を持っていたとしても、キャパ以上の負荷がかかれば壊れてしまいます。

もちろん重いボールやマウンドの影響なども関係あるでしょう。

単純な体の強度ではなく負荷との相関関係で見ていくことが必要で、「その上でどう負荷を軽減させるか?」という視点が重要です。

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増え続けるピッチャーの肘の故障

興味深いことにこれだけ医学が発展したにも関わらず、ピッチャーにおける肩、肘のケガはこの数十年間、増加傾向にあります。


*参考データ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25367016/

そしてピッチャーの肘の怪我で一番トラブルが多いのが大谷選手で有名になった内側側副靭帯です。

内側側副靭帯と言われても馴染みがないと思いますが、どこにあるものなのでしょうか?

このように多線維に分かれて肘の内側をサポートしている靭帯になります。

いわゆるトミージョン手術はこの靭帯に行います。

余談ですが、トミージョン手術は再建手術という事で、競技復帰や手術自体への不安を持たれる方も多いですが、80%以上の選手が復帰前よりも高いレベルに1年ほどで復帰できています。
*参考文献 http://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0363546510378100?journalCode=ajsb

競技復帰という意味では膝の前十字靭帯の再建手術と同じくらいの割合で可能です。
しかしながら、ほぼ一年というリハビリ期間を考慮すると手術というのは避けることができるに越したことはありません。

 

話を戻します。

トミージョン手術も含めてピッチャーの肘の負担を上げてしまうのは、専門的な言葉で言うとValgus instabilityという肘の外反の不安定性によるものが大きいとされています。
*参考文献 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4896887/

肘の外反の不安定性と言われてもわかりにくいと思いますので、図で説明してみます。

 

このように肘が外側に曲がり、肘の内側への負荷が強くなっている状態になります。この状態が続くとずっと肘の内側に負荷がかかり、キャパシティを超えるとバチンと靭帯が切れてしまったりします。

パワーピッチャーが増えている中、いくらケアをしても負荷も上がる傾向があるので怪我もなかなか減らないのでしょう。

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投球動作と肘の関係

では、どうしたらこの肘の内側への負担を減らすことができるのでしょうか?

それには投球動作のメカニズムを理解し、肘への負荷のかかり方を知ることが重要です。

投球動作を初動から見ていきましょう。

まず最初はテイクバック。腕を上げ肩と体幹のバネを伸ばし切る状態を作ります。
テイクバックはワインドアップ~コッキングに分かれ、コッキングの後半に肩の回旋(ひねり)の負荷が最大になります。
肩を外側にひねって最大に伸ばしバネがビヨーンと伸びたような状態を作り、そこから筋肉の収縮も利用して内側にひねる動きで腕を振る。するとバネが縮むようなエネルギーが生み出されます。

このテイクバックからフォロースルーにつながる動きがいわゆる「投げる」という動作です。

この一連の動作で注目したいのが、フォロースルーの加速期。

肘のひねりの負荷が最大になり内側への負荷も増すのが、このフォロースルーの加速期です。この時に肘が最大に回外にストレッチされた状態になります。

回外という言葉も聴きなれない言葉ですよね。

肘の関節は回外、回内という動きができます。

小さく前ならえ状態で掌を外側に動かすのが回外、内側に動かすのが回内になります。

 

つまりバネが伸びて戻るように投げる動作を行う時に、肘が外側に回って(回外)肘の内側に最大に負荷がかかるのがフォロースルーで加速していく時。
この負担を減らすことが重要になります。

大谷翔平選手のように160kmを超えるような速球を投げる投手は、フォロースルーの際にものすごいひねりが起こり、それを受け止める靭帯も負荷が大きいです。

肘が外側に曲がり肘の内側に負荷がかかるような状態で、投球の大きな負荷をかけ続けると「内側側副靭帯」が悲鳴をあげるというわけです。

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肘を壊さないために。また壊した時にどう対処したらいいか?

ここからはプロのピッチャーが実際にどう治療しているかと関連文献からの考察になります。
肘の治療に特に重要と思われる2つの組織をご紹介します。

肘の関節は上腕骨と橈骨、尺骨の前腕の骨によって形成されます。
肘の症状ではどうしても患部の肘だけに注目しがちですが、肘の関節の周囲の組織との関係も重要になります。

その1、
上腕骨で肘の内側の負荷を高める可能性の高い部位

烏口腕筋

この筋肉は烏口突起という肩甲骨の前の方のでっぱりの部分から上腕骨へと続く筋肉です。
この筋肉の収縮が過剰になってくると、上腕骨を内側へ引き寄せる力も強くなり、肘の内側への負担を高めます。

その2

Flexor pronator fascia (日本語訳はありませんでした)

このあたりの組織がフォロースルーの加速期にかなり重要で肘の内側の負荷にも大きく影響する組織です。
参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27814945

 

そうか!では鳥口腕筋やFlexor pronator fasciaをケアしておけばいいや!と思いますね。
確かにそれだけでもかなりの良いケアになります。
しかしながらそれだけでは不十分なのです。

肘の関節の組織は、実際には一般的な解剖学の本に載っているように筋肉がそのまま骨に付着しているわけではありません。周辺部位が線維状の組織となって付着しています。

 

要するに筋肉Aが単独でついているのではなく、筋肉A,B,Cなど様々な組織が複雑に絡みあってついています。

参考文献:

https://www.omicsonline.org/the-anatomy-of-the-forearm-extensor-muscles-and-the-fascia-in-the-lateral-aspect-of-the-elbow-joint-complex-2161-0940.1000117.php?aid=18490

 

このように関わる筋肉も多いので、例えば筋肉Aが硬いと筋肉Bの動きが悪くなるという事が起こってきます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20850050

肘への過剰な負担を減らそうとすれば、周囲の関係する筋肉や組織の動きも総合的に見ていかないと、なかなか負担を減らすこともできません。肘だと思ったら肩甲骨についている筋肉の動きが問題だったなんてこともあるわけです。

 

複雑になってしまいましたが、もっとシンプルにチェックする方法はないかというとあります。

まずは前ならえ状態で肘を外側にまわす動作(回外)をチェックします。

肘が外に回りにくかったら要注意です。ケアのタイミングです

次に手を反らした状態で肘を伸ばします。

ここで肘を伸ばす動きが制限されていたらチェックが必要です。

 

最後に指を2本ずつに分けてストレッチをします。

そこで指が十分ストレッチできるかをチェックします。
ストレッチに制限がかかっていると感じたら要注意。その部分をケアしましょう。

 

この3つのチェックで肘に関係する組織の動きが確認できます。

もし制限があった場合のオススメのセルフケアとしては

1、コンプレフロス(こちらの記事を参照
で肘全体を前腕から上腕にかけて圧迫し流れを良くする。

2、ドクターエア(こちらの記事を参照
などのローラーで緊張した筋肉を弛緩させる。
以上です。

重要なのは小まめに上記のチェック法で自分自身の状態を確認することです。
慢性的に回外の制限があると常に肘の内側への負担がかかった状態になっています。
当然かかる負荷が大きい、頻度が高いほど負担は大きくなります。

 

内側側副靭帯自体も重要ですし、トレーニングによるキャパシティを上げることも重要ですが、「小まめにチェックで早めのケア」。
これがピッチャーにおける肘の問題の重要なポイントです

追記

さんざん報道されていますし、大谷選手が受けたというPRPと幹細胞の注射って何?という方も多いかもしれません。

こちらについても簡単に解説を。

PRP、幹細胞の注射はともにいわゆる再生医療です。

近年はips 細胞をはじめとする再生医療は医学界のホットトピックであり、一番と言っていいほど研究されている分野です。

PRP注射は田中将大選手もかつて受けたことで知られています。

 

PRP療法(注射)はシワの改善など皮膚に対する美容目的で国内では使用されることが多いようですが、近年はスポーツ障害、特に慢性の腱炎に行われることが多い治療法です。

 

PRPはPlatelet-Rich Plasmaの略で、つまり血小板(Platelet)を濃縮したものです。

濃縮した血小板には組織や細胞の成長を促進する栄養素が多く含まれているとされています。自分の血液を遠心分離機にかけこのPRP組織を抽出し、それを注射するという手順で治療を行います。

また注射以外に、患部にいくつか穴を開けダメージを人為的に与えることで炎症期の状態にし、障害~炎症~再生~構築というパターンを促すという方法もあります。

この治療法で完全に断裂損傷してしまった組織を再生するのは難しいですが、残った組織を強固にしたり再構築することは期待できます。

ピッチャーの肘、サッカー、ランナーのグロインペイン症候群などに使われるケースが多いです。

ではもう一つの幹細胞治療(注射)とは何でしょう?

PRPが血小板を摘出するのに対し、幹細胞治療ではその名の通り自分の体から細胞を摘出して注射をします。PRPでは結晶板ですが幹細胞治療では細胞そのものを注射し、再生を促していくということになります。

近年では安全性も証明されています。皮膚、関節などに主に使用されますが、スポーツ障害で使用されるケースはまだ少ないようです。

PRP、幹細胞、どちらも再生を促す治療法ですが、大事な事として提案したいのは細胞、組織の住み家である環境をまず整える事です。

その細胞、組織の住処というのがいわゆる細胞外マトリックスです。

学会誌Natureなどでも、この細胞外マトリックスが再生医療においても重要な役割を担っていることが紹介されています。

細胞外マトリックスの環境が良いと細胞や組織も適切な状態を保ち、体を最適化することができます。

細胞外マトリクスへの悪い因子としては慢性的な不摂生(過度な飲酒や睡眠不足、栄養の偏り)、過活動(オーバーワーク、オーバーユーズ)が挙げられます。

運動する方はベストな状態を維持するためにも、普段からの生活やケアをしっかりして体内の環境維持をするのは必須かと思います。

*参考文献

https://www.nature.com/articles/s41578-018-0023-x

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0945053X17302962?via%3Dihub

 

PRP、幹細胞の治療はともに日本国内では自費診療です。数十万~数百万という高額な治療費がかかるため、一般的には非常に敷居の高い治療です。

ですから、とにかくまずは自分の体をなるべく早期に処置してケアをしっかりしましょう!

 

 

 

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