フォームローラーで筋膜リリースできると言われているけど、真偽はいかに?
フィットネスクラブや一般家庭でも浸透してきたコロコロの棒状のツール、フォームローラー。
一昔前は整体のツールとして人気でしたが、「筋膜」という言葉の流行りに乗り最近は「筋膜リリース」ツールとしても広がってきています。
今回のお題はこのフォームローラーと筋膜リリースについて。
フォームローラーを使って本当に筋膜はリリースできるのか。
実際できないことはないですが、使い方を間違えると逆効果にすらなりかねません。そのあたりを注意喚起も含めて紹介していきたいと思います。
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フォームローラー自体の効果とは?
まず、フォームローラーを使って得られる効果とはどんなものなのでしょうか?
フォームローラーを使うと「気持ちいい」。
これは実感された方も多いでしょう。
この「すっきり」効果は、研究でもデータが出てきています。
こちらのリサーチレビューでは(参照1)、フォームローラーなどのいわゆる「筋膜リリース」と言われるセルフマッサージに関する論文をレビュー。その効果を検証しています。
これによるとフォームローラーは可動域の向上には効果は期待ができるよう。
また、運動後の筋肉痛に関しては間接的に血液循環の向上による老廃物の排出を促して効果があるのかもしれないとのこと。
とにかく実感として「すっきりした」「動きやすくなった」というのはあながち間違いではなさそう。
では可動域については?
可動域が向上することは確かなようですが、どのくらい効果は持続するのか?
これはどれだけ論文を探しても見つかりません。効果のメカニズムからいって個人差が大きいのでしょう。
また、どのくらいの時間をかけてコロコロすれば効果があるのか?
これに興味がある人もいるかと思います。
多くの研究では30秒くらいかけるのがよしとされてますが、こちらの膝関節の屈曲の文献(参照2)では2分以下はあまり期待ができそうにないと言っています。
その他、2分30秒から3分20秒で持続伸張に効果がありそうとの文献もありました
そもそもフォームローラーで行っている事は筋膜リリースなのか?
フォームローラーの効果がわかったところで筋膜リリースとの関係について話を進めます。
こちらの文献(参照3)の研究者たちの仮説によれば、フォームローラーの刺激は筋肉のセンサーに働きかけ、痛みを抑制し、筋肉が伸びながら働く際に筋肉の伸張を持続できるとしています。
もう少し詳しく説明してみます。
筋膜リリースと言うと、筋膜に直接働きかけて筋膜が伸びたりゆるんだりするというイメージがありますが、フォームローラーを使うと直接的には筋肉へ刺激が行き、間接的に「筋膜」への効果があるということです。
ここには「筋膜」という言葉の誤解があります。
筋膜という言葉の元は英語で「Fascia」といいます。 巷で言われるいわゆる筋膜リリースの筋膜は「Fascia」とは実は違います。
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英語で言うFasciaは、日本で言われれているいわゆる筋膜とは違い、皮膚やその下の皮下組織、脂肪層、膜組織まで含む広い括りで捉えられる組織です。
また、細胞外基質という組織の元になっているものも含まれます。
筋膜研究の発祥の海外でいうFascia=(日本で言う)筋膜ではないという事です。
ここに大きな誤解が生まれています。
日本で言われている筋膜は、非常に狭い範囲のものを指していることが多いです。
そしてFasciaと言われる膜はその内容成分や要素によって硬さや柔らかさが大きく変わります。
重要なのはFasciaには筋肉にない神経の受容体(センサーのようなもの)があるところで、そこに刺激を加えるのがリリースには非常に大事な要素で、これが本来の筋膜リリースです。
日本で言ういわゆる筋膜リリースは、フォームローラーでコロコロして癒着した筋膜をベリベリ剥がしたりするイメージですが、コロコロしたくらいで筋膜は変化しません。
ただ、Fasciaという広い括りになると、受容器の刺激を介してFasciaリリースにはなります。
それも筋膜が剥がれたり伸びたりするということではなく「痛みの感覚が変化する」という意味ですが。
ややこしい話になりましたがコロコロローラーで「筋膜リリース」というイメージでは「筋膜」は変化しないし、リリースできません。
しかしながら間接的に組織のセンサーから刺激を入れる「Fasciaリリース」なら可能かもしれないということです。
筋膜リリースという言葉にはかなり誤解があるので、できることとできないことを把握してコンディショニングに役立てていただけたらと思います。
ちなみにオススメのフォームローラーはと聞かれたらドクターエアストレッチロールです。こちらの記事で紹介していますが、振動するフォームローラー=ドクターエアシリーズには意外な効果があります。筋膜がベリベリ剥がれるような効果はありませんが、振動による刺激で効率的に組織がゆるんだり痛みがなくなったりします。
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筋膜リリースについてもう少し詳しく説明
フォームローラーの効果をいくつか前述しましたが、実は確証があるものはそれほど多くはありません。
例えば「循環がよくなる」「パフォーマンスが向上する」などは眉唾です。
効果が期待できるかもというレベルだと前述した 「運動後などの筋肉痛が軽くなる」 「可動域が上がる」(参照4)(参照5) といったところ。
「すっきりする」というリラックス効果は確かです。
私が一つ気になるのは、フォームローラーを使う方の多くはこれでもか!とでゴリゴリ押し付けることです。
どんな効果を期待しているのかはわかりませんが、ゴリゴリフォームローラーを使う方がいます。
こういった強い圧で行うフォームローラーのセルフリリースは実はマッサージの4倍ほどの圧力がかかっています。
しかし! 筋肉痛や可動域の向上というレベルでアプローチしたいのはそれほど深い部分ではなく表層の部分。表層にアプローチするにはソフトなやり方で十分です。
また、逆にそれだけの力がかかっても深い位置にある解剖学上の「筋膜」はワイヤーロープよりも固く、ゴリゴリしたくらいではリリースできません。 ということでゴリゴリの強圧刺激というのは目的に合わないやり方なのです。
また、ローラー自体の硬さという話もあります。
こちらの研究だとローラーの硬さは可動域や痛みの関係しないとの事です。
硬いのが効くと思っている方も多いですが、硬かろうが柔らかろうがお伝えしてきたように刺激が入るレベルであててやれば、それなりに可動域が上がったり痛みを抑えたりする効果があります。 自分が心地よく感じる硬さを選ぶのが一番です。
逆に硬いローラーで強くゴリゴリしないと!って思っている人は要注意です。組織を痛めてしまい、痛みの感覚を狂わせます。何事もほどよくです!
では、フォームローラーで何をすべきなのか? 色々と概念や仮説はありますが確証のあるものはまだ多くはありません。
私は、いわゆる「筋膜」のリリースというより、やはりセンサーを通しての感覚の変化がフォームローラーの効果としては適当だと考えます。
では、本来の「筋膜リリース」というのは一体なんなのか?
よくイメージされるのは下図のように体のかさぶたを「こそげ取りリリースを行う」というものではないかと思います。
しかし、残念ながら器質的に変化した筋膜組織は俗に言う筋膜リリースでは「ほとんど」変える事はできません。(Chaudhry et al 2008)
(可能性はあります。ただ今のところ確証されたものがでていません。巷のいわゆる筋膜リリースでは、期待したような変化はおきません。)
例えば以下の2つのような論文があります。
●「筋膜」が「ガチガチ」になっている状態では、慢性腰痛や再発性腰痛患者の胸腰筋膜・腱膜のfasciaが健常者のものと比べ25%肥厚しており、組織秩序が乱れていた。 (Helene Langevin,2009)
●アキレス腱が肥厚している場合の89%に痛みがみられ、同じく、慢性頚部痛の患者には、膜組織の肥厚が超音波で観察された (Skeletal Radiology,2005)
この論文が示すのは「筋膜が厚くなって変化している」ということです。
ヒアルロン酸に異常があると筋膜が厚くなり、結果として組織間のなめらかさが失われる。
そうするとセンサーの異常や筋肉の痛み、こわばりや関節可動域が狭まったりするというわけです。
注意したいのは、ここでいう筋膜とは触ってわかるレベルのマクロな意味での筋膜(Fascia)だということ。
マクロなレベルでの筋膜(Fascia)の異常は筋膜が厚くなることによって起こり、これらはガチガチというより触って硬いというくらいのものです。
それと区別しないといけないのが細胞レベルのミクロな組織の繊維化している状態。
こやつは本当にガチガチです。
「筋膜をこそげ落とす」というイメージは筋肉とか動きが硬いというマクロのレベルを言っているかと思いますが、こちらはガチガチというほどの感じはありません。
それとミクロな組織レベルで本当にガチガチに変化しているのは区別して考えるべきでしょう。
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では、ミクロな組織のガチガチを改善するには?
学会で最近言われていたのは ECM細胞外マトリックス間質液の流動性、つまり細胞間の流れをよくすることです。
引用:stillpoint
そのためには組織にちょうどいい刺激を加える事、また体を動かさない状態を作らないことが有効と考えられています。
ちょうどいい刺激というのは「当たっている」と感じられるレベルの感覚や振動の感覚になります。
多くの方がやられているのは「当たっている」レベルではなくゴリゴリの「つぶしている」レベルになるのでちょうどいい刺激とは言いがたいです。
「体のかさぶた」をとってやる!というイメージではなく「ちょうどいい刺激」を与えてやるという方がコンディショニングのためには有効です。
フォームローラー以外で「筋膜リリース」できるもの
参考に、フォームローラー以外で筋膜リリースできるとされているものも紹介しましょう。
こちらのドラクエの武器で出てきそうなツール。
体験された方はいるでしょうか?
これはGraston Techniqueというテクニックから広がったIASTMと言われるツールです。
こちらも「筋膜リリース」ツールとして認識されているようですね。
カラクリはフォームローラーで説明させていただいた通りですが、こちらも誤解が多いようです。
このツールを使って皮膚が赤くなる人が多いのですが、一説によると脂肪組織(皮下組織)の炎症によるものとされています。
イメージ的には「筋膜の癒着を削りとる!」と使っている人が多い気がします。
そのためか強くゴリゴリする人がやはり多い。
以下はGraston Techniqueから拝借しましたIASTMのリサーチですが(6)
この道具を使って筋膜は削り取れているのか?というと
システマティックレビューやどのケーススタディも
1、可動域の変化、2、筋強度の向上、3、靭帯などの再構築し組織が強くなる。
といった効果しか見られません。
癒着を削り取って可動域が変化したり、筋強度が上がったり、靭帯が強くなるというわけではない。
フォームローラーと同じく組織にちょうどいい刺激を与えることで身体が反応するものです。
筋膜の癒着を削り取って改善するようなものではないので、強くゴリゴリこすっても意味がないのでやめておきましょう。
「筋膜リリース」というか「組織に適応する刺激を加えるツール」というのが正しいかと思います。
筋膜ストレッチはどうなの?
トーマス・マイヤースによるアナトミートレインのいわゆる筋膜ラインを考慮したストレッチというのもよく見ますね。
その筋膜ラインって実際どうなんでしょう?
こちらが筋膜ラインのシステマティックレビューになります。 (7)
6589の文献をレビューしたところ、62個の論文が基準に合い14個の論文で浅後部ラインの繋がりが立証され、8つの論文で後部の機能ライン、6つの論文で前部の機能ラインが立証された。その他螺旋ラインなどは適度な妥当性、浅前部ラインには確証はなかった。(Welke et al. 2016)
すべての人間が教科書通りのラインで繋がっているわけではないのでしょうか?
また、広背筋と対側大殿筋のつながり検証研究では
パッシブの広背筋のテンションでは大殿筋に変化はなく、アクティブの広背筋のテンションは臀部のスティッフネスが向上したとの事。(Carcalhais 2013)
他の文献によると胸腰筋膜の力の伝達は10~12㎝との事。
では、筋膜のラインを考慮してストレッチをしても「筋膜」のストレッチにはならないのか?
意味はないことはありません。
組織のコラーゲン繊維の元、線維芽細胞は刺激に応じて活性されます。
すなわち機械的な刺激が加わる、例えばランニングを毎日するとその特有の動きの刺激に合わせてコラーゲン繊維が活性され、動きに合わせた線維の構築がされます。
つまり筋膜のラインに合わせたストレッチというより、体の普段の動きに合わせたストレッチをすると「筋膜」に付随する筋肉はストレッチされるという事になるかと思います。
筋膜のラインを一番の基準に考えるのはやや疑問ということですね。
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現在私も含めこの分野は世界的に研究が進んでいます。
まだまだ未知なる可能性を秘めていますので何かアップデートされたらドンドン追記していきます。
* 筋膜リリース最新情報(2018/06追記)
先日このような文献が発表されました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29575206
この線維芽細胞は、皮膚などのコラーゲン組織を活性化させるということはわかっていましたが、この他にFasciacyeという細胞があり(英語ですみません)、こちらは筋膜(Fascia)の粘着成分であるヒアルロン酸やグルコサミノグリカンといった成分を活性化させるということがわかってきました。
日本の学会でもようやく発表されましたが、筋膜リリースというのはコラーゲンなどの線維を変えるものではなく、このようなFasciacyteを介してヒアルロン酸などの基質成分を変化させて、「(筋膜)Fasciaの流動性を変える」ものであるということが最新の見解です。
つまり、これまでの繰り返しですが「ローラーでゴリゴリするな!適度な刺激で筋膜の流動性を上げろ!」というアプローチの見解と一致します。
くれぐれもフォームローラーでゴリゴリ皮膚を刺激するのは控えましょう。
そして、この画像のようなものは「筋膜」リリースではなく、Fasciaの基質成分、水分を変化させることでの付帯的なリリースという認識を持っていただくとよいかと思います。
「筋膜」という線維組織をリリースしようとすると必要以上にゴリゴリしてしまいますから
2019/03 追記
ではフォームローラーコロコロは意味がないものなのか?
現在の認識では、かつて筋膜リリースの代表的な方法として知られていたフォームローラーに「硬くなった筋膜を柔らかくする」という効果があることは否定されています。
https://www.facebook.com/thephysionetwork/photos/a.303006030214991/548435345672057/?type=3&theater
しかしながらフォームローラーでコロコロすることはFascia(筋膜)を構造的に柔らかくしたり変えられるということはなくとも、全く意味のないものというわけでもありません。
昨年11月に開催されたFascia research congress(国際筋膜学会)にて日本の研究者が発表した研究が賞を取りました。
http://fasciacongress.org/wp-content/uploads/2018-abstracts/100.pdf
フォームローラーをすることで骨格構造は変化はなかったが関節の可動域は向上したという研究でした。
つまり可動域の変化という運動をする上での有益な変化は生み出すということです。
この学会でもFascia(筋膜)の構造的、解剖学的な役割よりも感覚器としての役割が注目される傾向にありました。
Fascia(筋膜)を柔らかくするためにコロコロすると強く押しすぎたりという弊害も生まれます。
フォームローラーはそのようなFascia(筋膜)を柔らかくするようなものではないが、運動前、運動後の可動域をあげたり運動の感覚を改善したりという目的で使用すると効果が期待できるツールである!という現在の見解かと思います。
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(1)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4637917/
(2)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26587061
(3)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22580977
(4)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/27749733/
(5)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4299735/
(6)http://www.grastontechnique.com/research
(7)https://www.anatomytrains.com/wp-content/uploads/2016/05/wilke-pdf.pdf
>この線維芽細胞は、皮膚などのコラーゲン組織を活性化させるということはわかっていましたが、この他にFasciacyeという細胞があり(英語で>すみません)、こちらは筋膜(Fascia)の粘着成分であるヒアルロン酸やグルコサミノグリカンといった成分を活性化させるということがわかっ>てきました。
>日本の学会でもようやく発表されましたが、筋膜リリースというのはコラーゲンなどの線維を変えるものではなく、このようなFasciacyteを介し>てヒアルロン酸などの基質成分を変化させて、「(筋膜)Fasciaの流動性を変える」ものであるということが最新の見解です。
結局のところ、フォームローラーなどを含めた「筋膜リリース」には、
癒着したり硬質化したFasciaの流動性を高まるんでしょうか?
記事の下のほうでは、次のように書かれているのでちょっと混乱しています。
気になっているのは、私自身が結構いろんなところで疼痛があって、エコーガイド下のトリガーポイント鍼灸やハイドロリリーを受けているのですが、MPSに対して有効なセルフケアがあるのか、ないのか、が気になっており、質問させていただきました。
>現在の認識では、かつて筋膜リリースの代表的な方法として知られていたフォームローラーに「硬くなった筋膜を柔らかくする」という効果>があることは否定されています。