ランナーに多いふくらはぎの肉離れ。アマチュアの方が癖になる?
走っているときに「ブチっ!」
マラソン大会に向けて一生懸命走りこんでいて、ふくらはぎを肉離れしてしまう。
こんなもどかしい思いをするランナーは非常に多いです。

ハムストリングの肉離れが多い短距離ランに対して、長距離ランではふくらはぎの肉離れが多い傾向があります。
また肉離れは”癖になる”と言われるように再発率の高い怪我の一つ。
そして、なぜか癖になる=繰り返す人はアマチュアで競技歴が短い人に多いようです。
スポーツでなくても、急ダッシュをしたらいきなり「ぶちっ」といったという中高年の方も多い。
一般の方にも馴染みが深いこの「ふくらはぎの肉離れ」について今回は解説します。
ふくらはぎの肉離れを起こす筋肉
肉離れを起こすふくらはぎの筋肉は主に3つに分かれます。
左右の腓腹筋にヒラメ筋の3つです。
腓腹筋の方が表面にあるためにふくはらぎの肉離れは腓腹筋の問題と感じる人が多いですが、ヒラメ筋の方がアキレス腱とくっついている部分が多く特に内側の方ではヒラメ筋の方が肉離れしやすいという報告もあります。

https://stretchpole-blog.com/から
それぞれの筋の肉離れの特徴があります。
腓腹筋は非常に肉離れをしたというのが分かりやすく、ストレッチをしたり歩いたりするだけで痛みを感じやすいです。
また、腓腹筋の肉離れの方が起こりやすいという見解もあり、その理由としては膝関節と足関節の二つをまたぐ筋である点、さらに速筋線維が多く含まれるためと言われています。
それに対し、ひらめ筋の肉離れは非常に分かりにくく、アキレス腱のトラブルと混同されるケースも多々見られます。
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ふくらはぎ肉離れの原因とは?
実はふくらはぎの肉離れが起こる理由はいまだに明白になっていません。
研究で明らかになった要因は二つで、「加齢」と「過去にふくらはぎの肉離れの経験があるか」という事のみです。
この二つの要因はふくらはぎの肉離れと相関するというのはデータ的にも判明しています。
ランナーという意味では、ランニングの質、量ともに増えてきた際には起こりやすい傾向があります。
競技歴が短かったり基礎体力が弱い人の方が繰り返し起こりやすいようです。
そして、プロのトップレベルの選手も含めて、ふくらはぎの肉離れで共通するのは「基本的な健康状態が悪い」時に起きるということです。
プロのアスリートでも飲酒をしたり、睡眠不足だったり食事がアンバランスであったり、近年は減ってきましたが喫煙であったり、そういった基本的な健康状態が影響をします。
面白いのは、ハムストリングの肉離れではこれはあまり言われません。
ふくらはぎの肉離れでのみ影響が大きいと言われています。
ふくらはぎの筋肉は筋の収縮によるポンプ作用で全身の血液などを循環させます。
不摂生により循環が滞ったり㏗が変化してしまっていると、筋の収縮にかかわる神経の伝達に影響があります。その状態で走ったりふくらはぎに負荷を与えると肉離れを起こしやすいようです。
基本的に体が資本のプロのアスリートは一般の運動愛好家に比べて摂生しているため、このあたりがアマチュアでふくらはぎの肉離れが頻出する原因となっているのかもしれません。
つまり、ふくらはぎの肉離れを未然に防ぐためには、頑張って練習するよりも日常的な水分摂取や食事バランス、睡眠、ストレスなどをマネージメントすることのほうがが重要と言えるでしょう。
また、滞ったふくらはぎの状態を改善すべくこのブログでも紹介をしてきたフロスバンドや振動ボールなどで循環を改善してから運動を始めるのはオススメです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25529372http://www.fitevangelist.com/archives/1303
その他にアマチュアランナーがふくらはぎの肉離れを起こしやすい原因として考えられるのは、加齢で起こる腰椎の椎間板や関節の問題です。
腰が悪くなると、ふくらはぎの筋肉に関わる神経の伝達が阻害される可能性も示唆されています。
そのため、普段から腰椎部を安定させるべく、いわゆるコアトレーニングなども効果的かもしれません。
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ではもし肉離れをやってしまったら?
重要なのは二つです。
1、炎症コントロール
2、慢性化させない
受傷してから3日から1週間で重要なのが炎症のコントロールです。
一般的に炎症コントロールといって思いつくのは「アイシング」かと思います。
ただアイシングに関しては近年では賛否両論あり、こちらの記事でも書きましたがあまり推奨されていません。
炎症期の反応としては「痛み」と「熱感」というのがありますが、患部が熱っぽく感じたらアイシングもいいかと思います。
またアイシングには痛みを抑える効果もありますので、痛みを我慢できない場合は効果的な場合もあります。
まずは体内の炎症状態をコントロールし患部の腫れをひかすこと。
抗炎症作用の強いとされている食材としては、ターメリック、シナモン、しょうがなどが言われています。またオメガ3脂肪酸、ビタミンACEなども効果的とされています。特にビタミンCは肉離れを受傷したら5gほど摂取するといいと一部で主張されています。
次に、腫れを引かすためには「圧迫」です。
上述のフロスバンドなども効果的でしょう。
炎症期が過ぎて腫れが引いてきたら、また内出血が収まってきたら行いたいのが慢性化させない処置です。個人差や症状の重さにより違いますが、2日後から1週間後には始めるといいかと思います。
重要となってくるのが関節運動など動きの最適化です。
痛みや炎症により抑制された状態が慢性化すると、その動きをしないように脳に刷り込まれ、肉離れが治っても元のような動きができなくなったりします。
そうならないように、可動域の向上をステップを踏んで行い、少しずつできる限りの可動域の中で動かしていくのがよいでしょう。
また慢性化させないためには、激しい肉離れの場合におこる瘢痕組織をなるべく酷くさせないという事も重要になってくるでしょう。
筋線維の断裂を伴う肉離れでは以下の画像の右のような状態になります。

この瘢痕組織は組織の修復再生段階で必要な過程です。瘢痕により線維がいわゆる引っ付いた状態になります。線維化と表現をされることもあります。
ただこの瘢痕が激しいと、筋肉の動きを妨げますのでなるべく抑えたいものです。
そのためにはこの線維化を助長させないコントロールを行うとよいでしょう。
考察レベルではありますがそのための方法を二点紹介いたします。
まずは自律神経コントロール。
交感神経が高まっている状態は線維化を助長します。
また痛みを感じやすくなるので動きを妨げてしまします。動かさない状態も線維化を促してしまいますので、より悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。
簡単なのはメディテーション的にゆっくりとした呼吸を一日何回か繰り返すこと。
なるべく怪我をしてしまった後悔の念を残さないようにリラックスして過ごすことです。
次にサプリメント。
これはまだ動物実験でしかありませんが、CBDオイルというのが間接的にリラックス効果を生み出して線維化を助長する要因を抑えてくれるといわれています。
https://item.rakuten.co.jp/cbd-botanical/endoca-014/
ただ、このようなサプリメント摂取の効果は確実とは言えないので自己責任になってしまいますが、一考の価値はあるかと思います。
肉離れ予防の最新知見
AC Ratio(acute:chronic workload ratio)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

近年GPSによる研究が盛んにおこなわれています。
サッカー中継などで総走行距離やスプリント回数などがGPSででてくるのを見たことはないでしょうか?
このようなGPS計測による「自分がどれだけマジで走ったか?」というのが分かってきています。
そのマジで走った負荷の量を4週間スパンで見て試合などの直近の負荷量と計算したのがAC ratioです。
昔は「試合のために走りこめ!」なんて言われていましたが、負荷量が慢性的に蓄積されると試合では肉離れなどの怪我が起こりやすくなります。
つまりマジで走れる負荷というのは一定で、限界量があるということです。
トレーニングをするプログラミング、テンパーリングなどはこちらを考慮する必要があります。
(テンパーリングのおすすめ本です。ピーキングのためのテーパリング 河森直紀さんhttps://books.rakuten.co.jp/rb/15360212/)
これにはもちろんリカバリーという事も重要になってきます。
怪我というのは基本的にLoad<Capacityという負荷が自分の許容量を超えた時に起こるものですから負荷に対して耐えうる状態というのを維持することも重要になってきます。
リカバリー系はまずは「睡眠、食事、水分、ストレス」! やはりこちらが一番です。
それでもだめならフロス、振動ロール、フォームローラー、マッサージなどのツールを利用しましょう。
肉離れであまり病院に行かない方が多いですが、治療のためというよりもMRIなどで自分の状態を把握するという事も重要ですので、もし激しい肉離れをした際は自己診断でなく病院に行くのをお勧めします。
【参考文献】
Orthopedics 肉離れのすべて2010年11月号
Dixon, J. B., Gastrocnemius vs. soleus strain: how to differentiate and deal with calf muscle injuries. Current Reviews in Musculoskeletal Medicine 2009, 2 (2), 74-77.
Orchard, J. W., Intrinsic and Extrinsic Risk Factors for Muscle Strains in Australian Football. The American Journal of Sports Medicine 2001,29 (3), 300-303.
Orchard, J.; Farhart, P.; Leopold, C., Lumbar spine region pathology and hamstring and calf injuries in athletes: is there a connection? British Journal of Sports Medicine 2004,38 (4), 502-504.
Orchard, J.; Best, T. M.; Verrall, G. M., Return to play following muscle strains. Clinical Journal of Sport Medicine 2005,15 (6), 436-441
Injury recurrence is lower at the highest professional football level than at national and amateur levels: does sports medicine and sports physiotherapy deliver?
Hägglund M Br J Sports Med. 2016 Jun;50(12):751-8
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The use of ultrasound in the evaluation of the efficacy of calf muscle pump function in primary chronic venous disease. Crisóstomo RS Phlebology. 2014 May;29(4):247-56
Calf exercise-induced vasodilation is blunted in healthy older adults with increased walking performance fatigue. Gonzales JU Exp Gerontol. 2014 Sep;57:1-5.
Accumulated workloads and the acute:chronic workload ratio relate to injury risk in elite youth football players Laura Bowen, Br J Sports Med. 2017 Mar; 51(5): 452–459.
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